tamasen 校長ブログ

2015年11月の記事

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2015年11月26日(木)

インフルエンザについて

久しくブログを書いておらず、申し訳ございません。今回はインフルエンザについて記載します。少々長い記述になりましたが、時間に余裕があるときにお読みください。

【インフルエンザ】
ご存じのように、インフルエンザは毎年12月中頃から4月初めまで流行する呼吸器疾患です。英語ではfluであり、日本と同様に風邪(common cold)と区別されています。典型例では急に高熱となって、悪寒や筋肉痛が起こります。そして咳や咽頭痛など呼吸器の症状が現れてきます。通常は4-5日で解熱に向かい、軽快します。しかし、幼小児では重症肺炎や脳症となることがあり、高齢者でも肺炎や脱水などで重症化することがあります。なお、インフルエンザを発症しても軽い風邪症状のみで、診断キットでインフルエンザと分かることもあります。

インフルエンザの病原体はウイルスです。このウイルスは発症したヒトの咳・くしゃみとともに環境に出ていきます。これを吸い込むと、その人の上気道の細胞に接着して感染します。このような感染を飛沫感染と言います。ただし、咳・くしゃみで出てきた飛沫(水を含んでいる)の状態では感染力がありますが、乾燥してしまうと感染力はなくなっていきます。また、インフルエンザウイルスの感染力は強いのですが、吸い込んだ人すべてでインフルエンザが起こるのではありません。吸い込んだ人の抵抗力、免疫力が高ければ、発症しにくくなります。

【インフルエンザウイルス】
ウイルスについて簡単に説明しましょう。細菌はヒトと同じように外界から栄養を取り込んで増殖します。しかし、ウイルスは、基本的に遺伝子(DNA or RNA)とタンパクで構成されていて(膜を持つウイルスがあります)、ウイルス粒子そのものでは増えません。特定の細胞に吸着し、自分の遺伝子を細胞の中に入れて、細胞の代謝系を拝借して、細胞の中で自分の遺伝子とタンパクを山のように作り、細胞の中で完成した多数のウイルス粒子となり、細胞を壊して外に出ていきます。これを繰り返して感染が広がっていきます。

インフルエンザウイルスはウイルス粒子の周りに膜を持っているウイルスです。このウイルスの粒子内部のたんぱく質の違いでA・B・Cに分かれます。通常流行するのはAとBです。このウイルスの膜にはヘモアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種のタンパクが埋め込まれて外界へ接しています(図1)。


HAで気道上皮細胞(気管・気管支内の外界に接する細胞)に吸着し、入り込み、感染します。そして、細胞内で複製された多量のウイルスがNAによってバラバラになって外界に出ていきます。B型ではHA・NAの大きな変化はありませんが、A型では変化した様々なタイプがあり、また今後も変化し続けます。この大きく変化したものを検出した順番に1-2-3と番号をつけています(亜型と呼びます)。A型で最初に分かったのがH1N1となります。同じ亜型でも少しずつ違ったものがあります(亜型内での変異)。

元来、インフルエンザウイルスは水禽類(水鳥、特にカモ)が保有しています。水禽類はすべての型・亜型のウイルスを保有しています。水禽類がインフルエンザウイルスで死ぬこともありますが、おおむね平気で保有しています。この様々な亜型すべてがヒトに感染するのではありません。様々な亜型はそれぞれに吸着しやすい、感染しやすい動物種があります。家禽(ニワトリ)は有名ですが、それ以外にブタ、ウマ、ミンク、アザラシ、クジラなどのインフルエンザが知られています。それぞれの動物に感染するウイルスが種を超えて感染することは稀ですが、時におこります。トリインフルエンザのヒトへの感染が問題になっています。また、ブタ感染のウイルスはヒトに感染しやすいと言われています。新しい亜型や大きな亜型内変異のウイルスでヒト−ヒト間の感染がある程度確認されると、新型(ヒト)インフルエンザと呼ばれます。新型インフルエンザに対してはすべてのヒトが初めて感染するため、対応する(獲得)免疫はありませんので、発症しやすく、大流行になります。2009年にメキシコから始まり、世界的な大流行となった事例を記憶されている方は多いでしょう。この事例はブタインフルエンザがヒトに感染し、ヒト−ヒト間感染に広がったとされています。

ヒトインフルエンザの原因として分離されているA型はH1N1(ソ連かぜ[スペインかぜ])、H2N2(アジアかぜ)、H3N2(香港かぜ)、H1N1pdm09です。H1N1pdm09は2009年の新型インフルエンザの株で、今では通常のインフルエンザとして取り扱われています。現在の流行はA型ではH1N1pdm09とH3N2です。B型は毎年に、主として春に流行します。

【インフルエンザ予防】
難しいことを書きました。次は予防を記述します。予防策は主として、手洗い、マスク、(うがい)です。前提としてワクチン接種(予防接種)をしましょう。厚生労働省は近年には「マメゾウくん」と「アズキちゃん」(図2A・B)をキャラクターにしてインフレエンザ予防のポスターを作成しています(図3)。今年度の標語は「きちんとマスク、しっかり手洗い」です。



手洗いとしての基本は石鹸手洗いです。口は気道にも食道にもつながっています。手の汚れとともに付着した微生物(ウイルス、細菌、真菌(カビ)、など)を除去することは呼吸器感染・消化器感染の双方に対して有用です。食事の前や帰宅時に、職場では出入り時に行ってください。ただし、全体を丁寧に、特に指先に注意して行ってください(図4)。


ぬるま湯でしっかり石鹸を流すことも重要です。石鹸が残ると手荒れ・手湿疹(主婦湿疹)が悪化します。また、水分をふき取るときには使い捨て紙タオルの使用が望ましいと考えています。何度も使用した布タオルは多くの微生物が付着していますし、増えていることもあります。家庭で布タオルの使用は当然ですが、複数回使用で水濡れがひどいものは新しいタオルに取り換えて使用してください。

消毒用アルコール(エタノール・イソプロパノール)はインフルエンザウイルスに有効(感染力消失)です。ウイルス保有の膜を消毒用アルコールは破壊します。消毒用アルコールを使用するときには片手にたっぷり注ぎ(3ml程度)手指全体に擦り込んでください。手が乾くと終了です。水洗いはしないで下さい(何回も使用した場合には別途に石鹸手洗いをしてください)。特に、指先を注意して、消毒してください。手指が濡れたままで、消毒用アルコールを使用すると効果は激減します。水分でアルコール濃度が下がるからです。なお、下痢を起こすノロウイルスには消毒用アルコールは効果がないとされています。
マスクをすることは予防効果があります。最も重要なのは咳・鼻水など風邪症状があるヒトがマスクをすることです(咳エチケット)。これによって、ウイルスの飛沫飛散が大きく防げます。ただし、マスクはきちんと着用しないと全く効果はありません。プリーツ部分を大きく広げて、鼻部器材をきちんと押さえて、あごや鼻横からの空気の流れを止めて、マスク面のみから呼吸気が出入りするようにしてください。呼吸気が漏れるとマスクの意味はありません。市販の3層マスク(外科用マスク)もしくは花粉アレルギー対策用マスクを使用してください。
うがいも予防効果があります。激しくガラガラとする必要はありません。軽く口・喉を洗い流すようにお願いします。

予防の前提は予防接種(ワクチン)です。ワクチンを接種すると激しい反応を起こすヒト以外は、できるだけ接種しましょう。ウイルスを培養する(増やす)時に有精卵を使用します。ワクチンを作るときに、極々微量の卵成分は残ります。ショック(アナフィラキシー・ショック)を起こしたことのある卵アレルギーのヒトには接種しませんが、多くの卵アレルギーのヒトにも接種可能です。接種医やかかりつけ医に相談してください。

ワクチンを接種してもインフルエンザにかかることはあります。しかし、発症率を減少させる効果、および重症化予防効果は確実にあるとされています。積極的にワクチンを接種しましょう。ただし、効果は長くはありません。ワクチンを接種して、免疫応答が起きて、予防効果がでるまでに2週間程度必要です。それ以降、4-5か月間は効果が続きます。ですから、毎年接種する必要があります。おおよそ、11月に接種して、流行期を乗り切ることになります。なお、従来はA型2株とB型1株を使った3価ワクチンでしたが、今年からA型2株とB型2株を使った4価ワクチンになりました。WHOの推奨や世界の潮流による措置です。今年度のワクチン使用株はA型2株(A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09、A/スイス/9715293/2013(NIB-88)(H3N2))とB型2株(B/プーケット/3073/2013(山形系統)、B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統))です。4価となり手間がかかるため、少し高価になりましたが、ワクチンを接種しましょう。

なお、世界的には皮下接種ではなく、点鼻するワクチンがあります。フルミスト(Flumist)との名前です。日本のワクチンはウイルスを培養し、殺滅して粉々にしたもので不活化ワクチンと呼ばれます(皮下接種)。フルミストは弱毒化した生きたウイルス株(4価)を点鼻します。低温培養可能なウイルス株でヒト体温(37℃)では増殖しにくいようにしてあります。粘膜で少しは増殖して免疫刺激となるため、粘膜での防御効果が高く、全体でも感染予防効果は高い結果が出ています。ただし、接種(点鼻)できない事例も多くあります。また、日本では未承認のため、副作用が出た場合には国家賠償の対象にはなりません。個人輸入で点鼻を行う医療施設はあります。

【インフルエンザ治療】
最後に、治療を記載します。
インフルエンザに効果のある薬剤(抗インフルエンザ薬)はあり、後で説明します。ただ、健康な成人では、病期(高熱の期間)を短くする効果しかありません。通常の健康成人がインフルエンザかもしれないと思った時(発症した時)には、マスクをしてかかりつけ医を訪ねて診断してもらいましょう。キットでインフルエンザと診断されたら、仕事場に連絡し、水分を補給しながら、自宅で休みましょう。病初期に無理をすると感染症は重症化しやすいのです。インフルエンザで出勤すると他のヒトにうつします。軽快して熱が下がってきたら、熱が下がった日を除いて以降2日間はできるだけ休んで下さい。この期間はウイルスを排出しています。抗インフルエンザ薬は必ずしも必要ではありません。日本は、世界の中でも、抗インフルエンザ薬を多量に使っている国です。ただし、幼小児や高齢者は重症化することもあり、抗インフルエンザ薬の服用を考えましょう。

現在使用されている抗インフルエンザ薬はすべてノイラミニダーゼ阻害薬です。最初のウイルスの説明で記述したように、インフルエンザウイルスはノイラミニダーゼ(NA)の作用で感染した気道の上皮細胞から外側へバラバラになって出ていきます。そして次の細胞に入り込んで感染が広がります。抗インフルエンザ薬はNAの作用を阻害して、感染細胞からウイルスが出ていくのを阻害します。感染したヒト細胞はどうしようもありません。ですから、感染が広がる前の服用が望ましいことになります。

現在の抗インフルエンザ薬は、@オセタミビル(商品名:タミフル)(1日2回/5日間)、Aザナビル(商品名:リレンザ)吸入(1日2回/5日間)、Bラナビル(商品名:イナビル)吸入(1回のみ)Cペラミビル(商品名:ラピアクタ)点滴(静脈注入)です。Bのイナビルは1回のみの投与ですが、吸入がきちんとできないと意味がなくなります。

抗インフルエンザ薬の副作用もあります。特に、タミフル使用での行動異常が幼小児で問題になりました。インフルエンザでは高熱や脳症の影響で行動異常が起こることもあるため、タミフル使用時の行動異常が薬によるものかははっきりしていません。厚生労働省は薬剤添付文書への記載(患者への説明)を以下のようにするように指導しています:「1.本剤の使用にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。2.10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、(1)異常行動の発現のおそれがあること、(2)自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。」

これらの抗インフルエンザ薬は発熱期間を短縮する効果はあります。ただし、薬を服用して解熱してもウイルスは排出されているので、解熱の次の日から2日間は職場・学校に行かないことをできるだけお願いします。

上記したように、インフルエンザに罹った時の基本は安静にしていることです。そして、発熱による脱水を避けるため、水分を多めに摂って下さい。幼小児や高齢者は脱水になりやすいので、熱が続く、尿の量が減る、立ちくらみが多いなど、全身状態がおかしい場合は医師に相談して下さい。脱水の場合は点滴が必要です。インフルエンザでは程度は様々ですが、発熱します。感染症での発熱は体が病原体と戦う1つの方法です。無理に下げず、しばらく様子をみるのが基本です。そうは言っても、高熱や熱が続く時には解熱薬を使用します。ただし、解熱薬(特にアスピリン)を使うと小児では中枢神経に異常(ライ症候群)が起こることがあります。小児では最も異常を起こす可能性の低いアセトアミノフェンという成分名の薬が多く使用されます。

一方、抗インフルエンザ薬でノイラミニダーゼ阻害薬でない薬も開発されています。日本で開発され2014年3月に日本で承認されたファビピラビル(商品名アビガン)です。(RNA依存性)RNAポリメラーゼの阻害薬です。インフルエンザウイルス(RNAウイルス)の遺伝子が感染細胞内で複製されることを阻害します。この薬は、実験動物で胎児に奇形を起こす作用(催奇性)が認められたことなどから、新型インフルエンザなどで他剤の効果のない場合で国が認めた時に使用されることになっています。なお、2014年に始まったアフリカでのエボラ出血熱の流行は世界的に大きな問題となりました。エボラ出血熱の原因ウイルスはRNAウイルスであり、アビガンがエボラ出血熱の治療に使える可能性がありました。実験的検討では一定の効果が認められており、研究が進められています。

【インフルエンザ菌とHibワクチン】
終わりの付け加えに、インフルエンザ菌について記述します。
インフルエンザ菌は細菌(バクテリア)であり、正式名称はヘモフィルス・インフルエンザ( Haemophilus influenza )と言います。ヒトの呼吸器に棲みついています。最初はインフルエンザの原因菌とされましたが、後で否定されました。名前は残りました。成人に肺炎を起こしたり呼吸器疾患を悪化させたりする菌です。薬剤耐性菌の増加もあり、呼吸器感染症で問題となっている菌です。菌の表面の莢膜成分(粘液;納豆のねばねばのようなもの)でa-fの血清型に分類されます。一方で、この菌は幼小児(5才未満)の細菌性髄膜炎の原因として50%を超える代表的な細菌です。髄膜炎の原因菌はほとんどb型です。このため、このインフルエンザ菌b型をHibと書いてヒブ菌と呼ぶことがあります。髄膜炎は基本的に重症感染症です。この髄膜炎を防ぐためにHibワクチンがあります。ワクチン接種は2か月齢以上、5才未満に接種されます(基本は計4回接種。接種開始時期により回数変動)。

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