tamasen 校長ブログ

2016年02月の記事

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2016年2月23日(火)

ノロウイルスによる食中毒について

前回はインフルエンザについて記述しました。今回はノロウイルスについて記述します。

みなさんもよくご存知のように、ノロウイルス食中毒は冬の下痢症の代表です。ただし、夏にも発生します。患者数では圧倒的に日本で最大です。なお、事例数になるとカンピロバクター(細菌の一種)によるものが最大です(2014年)。カンピロバクターと腸管出血性大腸菌(O-157が代表)による感染症(食中毒)の問題で生肉食が禁止になりました。

【症状】
ノロウイルス食中毒の潜伏期間(原因食を食べて下痢が起こるまでの期間)は24-48時間程度です。主な症状は吐き気・嘔吐、下痢(水様性)、腹痛です。発熱することもあります。通常は2−3日で軽快に向かいます。下痢の程度は様々ですが、激しい場合には、1日ずっとトイレから離れられないくらい嘔吐・下痢が続くことがあります。嘔吐・下痢の消化器症状のみで重症化することはありません。嘔吐・下痢が激しく、脱水・電解質喪失(Na, K, Cl)になると重症化します。また、最も危険なのは嘔吐です。嘔吐を誤嚥(ごえん:吐物が気道に入る)すると、窒息することがありますし、誤嚥性肺炎(吐物が肺に入って、吐物中の微生物が起こす肺炎)になることもあります。吐き気がする時には、我慢せずに吐いてください。我慢して、トイレに行こうとして、途中で吐いて誤嚥することがあります。高齢者や乳幼児などは横にして、口を下方に向けて、吐かせてください。
[要約]
水様性下痢・嘔吐が主症状です。脱水と誤嚥に注意してください。

【ヒトノロウイルスの概説】
 カリシウイルス科に属するウイルスです。近い仲間にヒトサポウイルスやネコカリシウイルス、マウスノロウイルスなどがあります。ノロウイルスの名はUSAオハイオ州のノーウォーク市で最初に検出されたことに由来しています。サポウイルスはノロウイルスと同じ症状を起こし、同じ時期に感染が発生しますが、感染頻度はノロウイルスより少なく、症状は少し軽い傾向にあります。サポウイルスは最初に札幌で検出されたのでこの名があります。
 さて、ウイルスの増殖についてはインフルエンザウイルスの稿で説明しました。ウイルスは我々の細胞に感染し、細胞の中で、細胞を乗っ取って、増殖します。動物の細胞では実験的に培養できる細胞があり、この培養細胞を利用して増殖が可能なウイルスがあります。インフルエンザも培養細胞(ベロ細胞など)で増やすことができます。しかし、ノロウイルスは増やせる培養細胞はありません。ノロウイルスはヒトの腸管上皮細胞でのみ増殖します。カキ(牡蠣)は集積するだけで、増殖しているのではありません(感染経路で述べます)。ウイルスを増やせないと実験ができません。ノロウイルスの環境耐性や消毒剤感受性は実験できません。このため、培養細胞で増やせる近縁のネコカリシウイルスなどを用いて実験が行われています。ウイルス株によっても結果は異なります。現在の記述(結論)は近縁ウイルスでの実験結果と疫学的な検討から想定されているものです。
[要約]
ノロウイルスはヒトの腸管のみで増殖します。実験室で増やせません。このことが感染予防対策などの確定を困難にしています。

【診断と疫学】
多くの場合、臨床症状(嘔吐・下痢)から診断されます。診断を確定するときには、便の中にノロウイルスがいるかを調べます。最も鋭敏で、保健所などで行われるのは、ウイルス遺伝子を増幅して検出する方法です。PCR法と呼ばれ、特にリアルタイムPCR法ではウイルス量も想定できます。しかし、食中毒集団発生での検体が全例陽性になるのではありません。この方法で陽性になれば、「ノロウイルス感染症」と言えますが、陰性で「ノロウイルス感染症ではない」とは言えません。他の感染症診断でも同様で、インフルエンザのキットが陰性で「インフルエンザではない」とは言えません。別に、ノロウイルスのタンパク質(抗原)を免疫学的に検出するキットも市販されています。遺伝子検出(PCR法)より感度は落ちます(鋭敏ではありません)が、十分使用できます。ただし、ノロウイルス検出では、基本的には、保険適応がありません。自費検査になります。遺伝子検出(PCR法)では少なくとも5千円、おおむね1万円以上になります。なお、3歳未満や65歳以上の患者さんや免疫が低下している患者さんでは保険適応があります。
ノロウイルスには遺伝子型があります。日本で、ノロウイルス感染が爆発的に流行したのは2006/2007シーズンです。この時以降、主要な流行型はGII/4と呼ばれるものです。同じ型でも少しずつ変化していきます。インフルエンザA型と同じです。一度感染すると、免疫反応が起きて、同じ病原体には感染し難くなります。麻疹(はしか)に感染すると、その後は長期に麻疹にはかかりません。しかし、残念ながら、インフルエンザやノロウイルスでは感染しても、感染を抑える免疫力は長く続きません。ノロウイルスでは数か月と言われています。型が変化するとそれに対応する免疫力を多くのヒトが持っていないため、大流行になることがあります。ノロウイルスでは、2014/2015シーズンには、以前と違い、GII/17が増えてきました。今シーズン(2015/2016)はGII/17が大流行することが警戒されています。ただし、この項を書いている2016年2月初旬ではノロウイルス感染は多くはありません。
[要約]
ノロウイルスの診断では一般の方は保険適応がないため、鋭敏な検査では高価になります。

【感染経路】

ほとんどは経口感染です。空気感染もあります。
 通常は食物から感染します。従来から有名なのは生牡蠣です。ノロウイルスはヒト腸管上皮細胞で増殖し、感染患者の便や吐物には無数のウイルス粒子があります。ノロウイルスの大きさは30nm(1nm = 1/106mm = 百万分の1ミリ)であり、非常に小さな粒子です。糞便は下水道処理施設で浄化されますが、ウイルスは小さいのでそのまま川に流れ、最終的には海に流れ込みます。川や海の二枚貝がプランクトンなどのエサとともに吸い込みます。そして、中腸線(牡蠣では黒っぽいところ、ホタテ貝では貝柱の周りの黒いところ)に固着し、集積されます。多くのウイルスは乾燥状況や水中では増殖活性を失っていきます(死んでいきます)が、ノロウイルスは全く活性を失わず、感染能力を保持し続けます。環境耐性の強いウイルスです。ただし、牡蠣の中で増えることはありません。新鮮な牡蠣とそれが古くなったもののウイルス量は変わりません。このウイルスを持った生もしくは加熱不十分な牡蠣を食べるとヒト腸管で増えて食中毒(嘔吐・下痢)になります。これが、以前の典型的感染経路です。しかし、現在は、牡蠣ではノロウイルス検査を抜き取りで行っているため、日本産牡蠣での感染は大幅に少なくなっています。
現在の主要感染経路は、ヒトーヒト感染です。つまり、ウイルスを保有する糞便が、何かに付着し、これに他の人が触って、最終的にその人の口に入って感染します(糞口感染)。もしくは、ウイルスを保有する糞便が、食材に付着し、それを食べて感染します。食物の中では増殖しません。作りたての料理に混入したウイルスの量は腐るまで放置しても変わりません。食物で増えないのに食中毒が多い原因はノロウイルスの強い環境耐性です。ノロウイルスは上記したように水中でも食材中でも、増殖はしませんが、感染能力(増殖活性)は失いません。感染中もしくは治癒後の糞便には膨大なウイルスが含まれますが、最終的に食物や手に付着・混入するウイルスは非常に少数になります。しかし、ノロウイルスは10数個でヒトに感染が成立します。通常は、病原体が食中毒を起こすためには10万個から100万個程度が必要です(食物で増えると室温では容易にこの数になります)。ノロウイルスは少ない数で食中毒を起こします。その直接の原因は胃酸への耐性とされています。胃酸は強い酸性です。多くの病原体は胃酸で殺されるため、腸へ生きた病原体が侵入するためには元の数がたくさん必要です。ノロウイルス、腸管出血性大腸菌(O-157が代表)、赤痢菌などは酸への抵抗性が高く、食べた病原体がほとんどそのまま腸に到達して、食中毒を起こします。
もう一つの感染経路が空気感染です。上述したように、ノロウイルスの環境耐性強いのです。通常のインフルエンザなどのウイルスは乾燥すると死滅していきます。しかし、ノロウイルスは乾燥しても死にません(永久ではありませんが)。吐物が乾燥して、塵になって空気中を漂い、口に入って、腸に到達して、発症します。ですから、吐物はふき取って、吐物の場所を消毒することが必要です(予防の項参照)。このように、乾燥してもなかなか死なない病原体は、他には、結核菌や麻疹(はしか)ウイルスなどがあります。結核菌や麻疹ウイルスは呼吸器で感染しますので、この感染様式を飛沫核(咳などでの飛沫が乾いて塵になったもの)感染と言います。
[要約]
ノロウイルスの環境耐性は高く、少量のウイルス経口摂取で発症します。乾燥しても死なないため、空気感染(消化管感染ですが)もあります。

【感染予防】
 まず消毒に関してですが、上述したように、ノロウイルスは実験的に増やせないので、ウイルス粒子が生きているかどうかチェックできないのです。近縁のウイルスで実験しています。確実なことは分かりません。しかし、近縁のウイルスでの検討と疫学的検討(状況の統計学的な検討)から、下記のことが設定されています。
 (消毒剤)
 手指消毒剤の代表である通常の消毒用アルコール(80%のエタノールもしくはイソプロパノール)は効果を示しません。酸性に調整した消毒用アルコールは効果を示すとの意見(近縁のウイルスでの検討結果)があります。現状では、石鹸手洗いを優先してください(後述)。その他の、手指用消毒剤は効果がありません。器具や環境(床など)用では、次亜塩素酸は有効です。強アルカリですので、希釈しても手指用として使用しないでください。金属腐食性もありますので、漬けて使用すると錆びがでることがあります。次亜塩素酸は家庭用で塩素系消毒剤(ハイター・ブリーチなど)として売られています。市販品はおおむね5%の濃度です。使用時に、50倍に希釈して(0.01%)使用してください。次亜塩素酸は揮発します。原液はしっかり蓋をしめて保存し、使用直前に希釈してください。希釈物の保存は厳禁です。吐物の処理(床やトイレの消毒)ではまず拭き取りが重要です。使い捨てグローブをして、使い捨てガウンをして、ティシュや紙タオルでしっかりふき取ってください。汚染物(有機物)では消毒剤の効果は激減します。ふき取った後で、次亜塩素酸で消毒してください。ただし、希釈しても強アルカリです。子供の手に触れないようにして、しばらくしてふき取り、水拭きをしてください。使用した紙やグローブなどはすべてプラスチック袋に入れて、しっかり口を閉じて、廃棄してください、最後に、しっかり手洗いをしてください(後述)。なお、次亜塩素酸が手につくとアルカリ火傷になります。しっかり蓋を閉めて、子供の手の届かないところに保管してください。
[要約]
環境(床など)は次亜塩素酸(ハイター・ブリーチ)で消毒できます。揮発しますから、使用直前に希釈してください。消毒前に吐物などをふき取ってください。次亜塩素酸は強アルカリなので、注意をして扱い、後の水拭きが必要です。
 (手洗い)
一般的に、汚染(有機物)があると消毒剤の効果は大きく減少します。ノロウイルス対策の基本は石鹸手洗い(界面活性剤での手洗い)です。汚染を洗い流し去ることが重要です。手洗いでは液体石鹸を使用してください。何度も使用する固形石鹸では汚染が移る可能性があります。石鹸類には、基本的に消毒作用はありません。消毒剤を配合したものがありますが、ノロウイルスに効果はありません。液体石鹸でしっかり汚染を洗い流してください。洗い残しがないように、丁寧に石鹸手洗いをお願いします。やり方は、前回のインフルエンザの項に掲載していますので、参照してください。なお、石鹸手洗いでは、洗剤が残らないように、水洗することも重要です。洗剤が残ると手荒れの原因になります。できれば、ぬるま湯で洗い流してください。水洗後の手拭きは使い捨て紙タオルの使用を推奨します。家庭での手拭きで、常に紙タオルの使用は困難かとは思いますが、家族に風邪(インフルエンザ?)や下痢(ノロウイルス感染?)があるときには紙タオルを使ってください。複数回使用の布タオルでは汚染が他に移る可能性があり、家族内感染の危険性があります。
[要約]
とにかく、一番重要なのは石鹸での手洗いです。汚染の移行を防ぐために、液体石鹸や使い捨て紙タオルを使いましょう。
(病原体排出期間)
 ノロウイルス感染の下痢が治まった後もウイルスは便に排出されています。少なくとも、治癒後の約1-2週間はかなり大量のウイルスを排出しています。治癒後数か月はウイルスが排出されることもあります。なお、ノロウイルスに感染して、ウイルスが腸管である程度増殖しても、全員が発症(下痢を起こす)するのではありません。自分では健康だと思っていても、ウイルスを排出していることもあります。
 従って、ノロウイルス感染の下痢が治まった後も少なくとも2週間程度は石鹸手洗いを励行し、家庭で調理する場合は、できれば使い捨てグローブをして調理してください。
[要約]
症状(嘔吐・下痢)が治まっても、しばらくはウイルス排出が続きます。症状が治まって、少なくとも2週間は手洗いをしっかりしてください。
 (調理・加熱)
 調理での基本は、混入させないことです。手洗い・使い捨てグローブ着用が基本です。まな板などでの調理後の汚染に注意してください。加熱でウイルスは死滅します。しかし、他の病原体に比べて、ノロウイルスは高耐熱性です。厚生労働省の基準では、腸管出血性大腸菌(代表O-157)に対しては、食品中心温度で75℃以上、1分の加熱が必要としています。一般的な病原体はこの基準で死滅します。一方、ノロウイルスに対しては食品中心温度で85℃以上、1.5分の加熱が望ましいとしています。食品の中心まで、この温度になるまで調理するには長い加熱時間が必要で大変です。「牡蠣を熱湯でシャブシャブしたら表面のノロウイルスは死ぬから大丈夫でしょう」と尋ねられますが、間違いです。ノロウイルスは中腸線(外から見ると黒ずんで見える中心部:食べると中で褐色の部分)に蓄積されるので、中心まで加熱しないと、ノロウイルスは死にません(上述しましたが、日本産の牡蠣産地では抜き取り牡蠣でノロウイルスの検査をしています)。
[要約]
 他の病原体に比べて耐熱性は高いです。厚生労働省の基準では、殺すためには85℃以上、1.5分の加熱が必要です。基本は、手洗いと付着させない(混入させない)です。

【治療】
 細菌感染に対する抗菌剤(抗生剤)やインフルエンザに対するオセルタミビル(タミフル®)のような特異的に効果がある(直接に効く)薬は、ノロウイルスに対してはありません。ノロウイルスに対するワクチンもありません(研究中ですが)。
 ノロウイルスに感染し、嘔吐・下痢で発症したら、寝ているしかありません。嘔吐・下痢をした量に応じて、水分を補ってください。ただし、嘔吐・下痢では大量の消化液が出ていきます。大量のイオン(Na+, K+, Cl-、などの電解質)が失われます。脱水になる危険性があります。イオンの補給が必要です。水以外に市販の経口補液(OS-1,アクアライトORS、など)を適宜に飲用してください。病院で処方する顆粒剤(ソリタT2・3:水に溶かして飲用)もあります。大阪小児医会(ホームペイジ)では「水1リットルに対し、砂糖40グラム(大さじ4.5杯)と食塩3グラム(小さじ1/2杯)を溶かす」との作り方を紹介しています。経口補液にはかなりの量のイオンが入っていますので、少し塩辛い味です。嘔吐が多い時、吐き気が強い時に経口補液を飲むと嘔吐が強くなることがあります。特に、乳幼児では注意をして飲ませてください。
 脱水が強くなると危険です。元気がなくなる・ぼんやりとしている・尿量が少ないなどの症状がでると脱水が進行していることがあります。病院に行きましょう。脱水の診断は簡単ではありませんが、脱水の場合は静脈補液で水補給と体内のイオンバランス調整を行います。ただし、元々心臓や腎臓の機能が低下している場合は、大量の水分を取ると、その臓器に負担をかけることになりますから、下痢・嘔吐の時は早めにかかりつけ医に相談してください。
 なお、経口補液には糖分(主にブドウ糖)が入っています。腸管からイオンを吸収するときには糖が必要だからです。しかし、少量で良いのですが、飲みやすさの調整もあり、多めに糖分が入っているものが多いのです。下痢・嘔吐ではこの処方で良いと思いますが、日常的飲用するのは問題です。常に糖分を採っていることになります。特に、乳幼児に日常的にイオン飲料を与えるのは問題と思っています。
 吐物が、気道に入っての窒息・誤嚥性肺炎が問題です。症状の項目で説明しているように、気道に入らないように吐かせてください。下痢・嘔吐が治まって、しばらくして咳・痰の量が増える、もしくは熱が出てくると誤嚥性肺炎の疑いがあります。特に、高齢者では注意してください。
[要約]
特異的な薬はありません。水分・イオンを摂取して、脱水に注意しましょう。吐物の気道侵入(窒息・誤嚥性肺炎)にも注意してください。

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