tamasen 校長ブログ

2016年10月の記事

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2016年10月8日(土)

彼岸花

 岡山では、今年は9月の秋分の日を過ぎた頃でも暑い、しかも雨が多い。テレビを観ていると、岡山のニュースで真庭の川東公園のヒガンバナ群生が見事であると報じていた。これを聞いて、以前住んでいた栃木での群生地を思い出した。近隣の群生地をネットでさがすと児島湖花回廊ゴルフコースでヒガンバナ鑑賞会が開かれているとのことである。休日の日、朝は雨であったが、訪れることとした。

ヒガンバナ(彼岸花)の花は、ご承知のごとく、花の周りに葉はない。黄緑の花茎の上に、空飛ぶ円盤の骨組みを赤い針金で作ったような花が乗っかっている。一輪から数輪の花を遠くから見ると空中に浮遊している水引細工であるが、大きな赤いクモにも見える。やさしい花ではない。英語名はRed spider lily である。自然の植物に適切な形容名をつけない英語にしては珍しく上手と思う。一面に咲いた姿を見ると、地面から緑の針金で浮かして広げた、絡み合った赤い毛糸である。よこの広がりが強調され、印象は強い。この花を見ると秋が来ると思う。小さき時、田の稲穂が首を垂れ始める頃に、畔で咲くのを見ていた。昨日まで気づかなかったある日、突然に赤い花が見え、子供の自分には奇妙で恐ろしく感じたのを覚えている。


写真@は児島湖花回廊ゴルフコースのものである。朝の雨は止み、曇りではあるが、空は明るかった。花が新鮮であり、鮮烈な赤がくっきりと眼に入った。まだつぼみも多い。花とつぼみの群れが区分けされてリズムを作っている。風はほとんどなく、むっとした空気のなかで、赤い風景は動かない。その中で、ふと動く影が見えた。蝶である。揚羽蝶類であった。数匹が花の蜜を吸い、ふわりと舞い上がって次の花に移る。クロアゲハはその黒さで目立つ(写真A)。赤い絨毯の中、それを拒否するように、別次元で移ろっていく。対して、アゲハの黄色は風景に重なり溶け込む(写真B)。


少し、目を離すと分からなくなってしまう。しばらく揚羽蝶が飛ぶヒガンバナの群れを見ながら時を過ごした。秋が来る。秋が早く来て、すがすがしい晴天の空を見たいと思った。
花回廊でのヒガンバナを観ながら、栃木の群落を思い出していた。岡山の北部も同じと思うが、栃木では蕎麦の栽培が盛んである。蕎麦は草であり、その花は白く、小さく、可憐である。ヒガンバナと同じ時期に咲く。共に見ると、大きな赤の塊と薄緑の中の小さな白塊の散らばりが対比されて美しい(写真C)。


さて、植物としてのヒガンバナについて少し記述する。彼岸のころに咲くのでヒガンバナである。曼珠沙華(マンジュシャゲ)とも呼ばれるが、この言葉はサンスクリット語での赤い花に由来するとされている。花が咲く時期に葉はない。花が枯れて、秋深くなると、スイセンに似た、平たく細い葉を茂らす。春には枯れて、花茎が出てくるまでは地上には何もない。地中に小さなタマネギのような鱗茎がある。妙な植物である。他に、私の知る中では、花のみ咲く奇妙な植物にはギンリョウソウ(銀竜草)がある(写真D)。



平地の林では5-6月に暗がりの枯葉の中にひっそりと咲く。高さが5-10cm程度の白く透明感がある植物である。樹木の根に寄生する植物であり、葉緑体はない。上部の花の中に鈍い青色の顔が見える。群生する姿は、小さき一つ目の西洋ユウレイが集団で静かに整列しているようである。
ヒガンバナの葉はスイセンに似ると記したが、スイセンはヒガンバナ科であり、近縁である。ヒガンバナに最も近いのは盆の時期に咲くキツネノカミソリであろう。この群の植物はどの部位も毒がある。ヒガンバナの属名はリコリス( Lycoris )であり、主要な保有毒はリコリン(lycorine: アルカロイドの一種)である。誤って食べると、嘔吐・下痢を起こす。重症では麻痺を起こして死亡することもあるとされている。通常の加熱で失活しないが、水様性である。元来、ヒガンバナは中国原産である。江戸時代より前、日本に入り、人の手によって水田の畔や土手に植えられて、広がっていったと伝えられている。毒を含むため、植えられた近くをミミズやモグラなどが避けるので崩れない、との説もある。畔・土手に一面に植えられているのは珍しいので、この説は少々危うい。ただ、江戸時代には飢饉の時の救飢植物として役立ったことは本当の話と聞いている。鱗茎(球根のようなもの)にも毒はあるが、水様性のため、砕いて水に晒すと毒が流れて、デンプンとして食用できると聞いた。
 なお、リコリスという菓子が欧州にある。日本語のカタカナではリコリスであるが、ヒガンバナは「Lycoris」であり、菓子のリコリスは「Licorice 」である。「Licorice 」はスペインカンゾウ(甘草)(マメ科)の学名(属名)であり、この植物の抽出物にはグリチルリチン酸という甘味成分を含んでいる。この抽出物を含む菓子をまとめて「Licorice 」(リコリス)と呼ぶようである。国により呼び名は違うが、リコリスと言うと誰でも通じる。欧州の学会に出席した時の懇親会で配られていたので、食べたことがある。グミのようなものであった。甘いようではあったが、薬臭い。欧州人は食べていたが、まずい。不可思議な食べ物であるリコリス菓子にこだわるのは、甘味成分であるグリチルリチン酸が薬として使用されているからである。かなり前から肝臓障害・アレルギーの薬として、化粧品の保湿成分として、使用されてきた。大きな効果は認められていないが、現在でも使用されている。ただし、過料では副作用はある。



 最後に、写真Eを見て欲しい。穴あき桜葉である。花回廊ゴルフコースには河津桜が並木として植えられている。この桜の花期はソメイヨシノより早い2月であり、花色は濃い桃色である。花回廊の木はまだ若いが花は十分に楽しめる。写真@の背景にヒガンバナの奥に並んでいるのがそれである。ヒガンバナを見ながら歩いている時に、ふと気が付いた。数本の桜の葉が穴あきである。ところによっては、写真のように、葉脈をのこして葉肉がなく、葉脈標本に近い。葉は枝にしっかり付いており、落葉する様子はない。曇天をバックに写真を撮った。虫に食べられたかと思ったが、葉外周に虫食いの跡はほとんどない。葉肉を食べて葉脈を残すハムシなどの害虫はいるが、その場合は、食べられた葉肉の部分に膜様のものが残ると思う。確実ではないが、穿孔性褐班病(カッパン病)と思う。原因はカビである。桜ではPseudocercospora 属が多いとされている。葉にカビが付き、増殖すると、葉肉部分の水分循環が止まり、黄色となり、最後は穴ができると言う。多くの桜で少しは見られるとのことである。ここまで穴あきで、尚且つ枝にしっかり付いているにはめずらしいと思う。美しいのではないが、印象的な画である。夏の盛りが過ぎ、秋が来て桜葉が散っていくまでの一時の景である。ヒガンバナの赤を観て、桜葉の穴あきに気付いて、季節の動いて行くのを感じた。

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