tamasen 校長ブログ

2017年09月の記事

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2017年9月8日(金)

海外旅行と感染(輸入感染症)[高熱]

 この稿を記述している9月初めには、少しく暑さが和らいできた。ホッとしつつ、全身のだるさを感じている。夏バテである。本年も岡山は暑かったのである。
 最近、海外旅行での感染について話をしたり、問い合わせを受けたりした。夏休みには海外旅行での感染(輸入感染)が多い。少し時期遅れの感はあるが、輸入感染は夏のみではなく一年中起こるので、いくつかの代表的なものを概述することとした。
 すべては書けないので、高熱を取り上げる。インフルエンザも高熱が出るが、呼吸器症状を伴う。ここでは高熱を主症状とする疾患の代表を記載する。

 海外旅行、特に熱帯・亜熱帯地方、から帰って高熱が出る感染症がいくつかある。最も多いのはデング熱(Dengue fever)である。デング熱は東南アジアを主として世界中の熱帯・亜熱帯地方で流行している。日本での輸入感染例は確定したもので年間に200例以上であり、2016年は350例近くであった。感染例は多いのである。夏季に多いものの冬季にもかなり発生例がある。
原因はデングウイルスであり、これを保有する蚊に刺されて感染する。おおむね、刺咬後3−7日で発症する。突然の発熱、通常は高熱、で始まる。関節痛が強いのが特徴である。ある患者さんに聞くと、「骨の髄が痛い。背骨が痛い。動くと余計痛いが、じっとしていられない。」と言った。もちろん、痛みの程度や感じ方は様々である。デング熱の語源はダンディを意味するスペイン語のデングエロからとされている。日本のテングとは関係ない。患者は全身が痛いために背骨をまっすぐにしてゆっくり歩くので、ダンディに見えたとの事である。発熱は数日から1週間で解熱するが、解熱時に発疹がでることが多い。また、血液の血小板が一過性に減少する(皮膚に出血斑・紫斑ができやすくなる)。高熱が主体のため、症状からの診断は困難で、血液からのウイルス遺伝子の検出や抗体価の測定が必要である。通常は重症化が少ない。ただし、デングウイルスには4つの型(血清型)がある。別の型に感染すると(すなわち、2回目の感染)、重症化し、大幅に血小板が減少して、出血傾向が出ることがある。これをデング出血熱と言って、死亡することもある。今のところ日本人での死亡例はない。

 このデング熱を媒介する蚊はネッタイシマカおよびヒトスジシマカである。ネッタイシマカは空港周辺で見つけられることはあるが、日本に棲息はしていない。ヒトスジシマカは日本に棲息する代表的な蚊である。黒っぽく、足が白黒のマダラ模様である。従って、海外で感染したヒトの血をヒトスジシマカが吸血して、別のヒトを吸血すると、デング熱を発症する危険がある。実際に、2014年の夏には東京都心を中心に162名の国内感染患者(海外感染ではない)が出た。かつて、1942年から1945年には西日本で20万人の患者が出ている。今後も、国内発生は十分に考えられる。残念ながら、ワクチン(予防接種)はなく、特効薬もない。
 なお、デング熱と症状がそっくりな疾患にチクングンヤ熱がある。元来はインド洋の諸島地域で流行していたが、現在は世界中の熱帯・亜熱帯地方に広がっている。媒介蚊はデング熱と同じである。デング熱より少ないが、海外で感染した日本人患者は認められる。

 高熱の出る別の海外感染疾患にマラリアがある。熱帯地域に広く分布している。病原体は原虫である。マラリアには5種類あり、熱帯熱・三日熱・四日熱・卵型マラリアと近年にヒト感染が判明したサルマラリアである。原虫が赤血球で発育し、定期的に赤血球を破壊して発熱する。三日熱では48時間毎に、四日熱では72時間毎に発熱する。ただし、熱帯熱マラリアでは周期性は薄い。最も重症であるのは熱帯熱マラリアである(サルマラリアも重症化する)。脳マラリア、肺水腫、出血傾向、腎障害などで死亡する例があり、脳マラリアになると突然死もある。日本での海外感染例は年間50例程度であるが、重症の熱帯熱マラリアが約半数を占める。診断が遅れることが多い。デング熱ではやがて治癒していくが、マラリアでは慢性化・重症化する。マラリアに効く薬はあるが、薬を使用可能な病院は全国でも少ない。できるだけ早く診断して、薬を使用可能な病院に患者を搬送する必要がある。





 ある患者さんの血液像(ギムザ染色をしてある)(写真)を示す。若い女性であり、正月休みにアフリカに行き、サファリで野生動物見学をした。帰国して発熱し、近くの開業医を訪れて、アフリカ旅行の話もしたが、インフルエンザでしょうと言われたとのこと。しばらくして、皮膚に出血斑・紫斑がでて、行動不能となって、救急車で運ばれてきた。熱帯病を疑って、血液の染色標本を作製し、寄生虫学で見てもらったのがこの写真である。私にもマラリアとは分かるが、何マラリアかは判然としない。専門家は即座に熱帯熱マラリアと診断した。このマラリア原虫は赤血球や肝臓に寄生し、様々な形態を持つ。写真では、少し黒っぽく円盤状のものが赤血球である。よく見ると、赤血球の中に紫色のリング状(指輪状)のものが見える。これが赤血球に寄生したマラリア原虫で、形からリングフォームと呼ばれている。このマラリア原虫が成熟して赤血球から出ていくときに、赤血球が壊れて、熱が出る。また、赤血球が壊れると、血液中の血小板がくっついて行く。これが多く起こると、血液中の血小板が消費されて少なり、出血しやすくなる。皮膚に出血斑・紫斑がでる。また、腎臓障害も起こる。こうなると重症である。この患者さんは1か月以上入院した。回復して、我々もホッとしたのである。なお、このような赤血球の破壊(溶血)と引き続く血小板減少は腸管出血性大腸菌(代表O-157)感染でも起きる。細菌の出す毒素が血液に入り、起こる。溶血性尿毒症症候群(HUS)と呼ばれ、やはり重症である。

 マラリアもワクチン(予防接種)はないが、効果のある薬はある。蚊で媒介されるが、デング熱と異なり、ハマダラカ(Anopheles属)が媒介する。現在の日本では、土着の(国内で発生する)マラリアはない。しかし、昔はかなりの患者が発生していた。平清盛が高熱で亡くなったと記録が残っているが、症状からマラリアと想定されている。また、明治から昭和初期にかけて三日熱マラリアが流行した。現在はハマダラカの減少もあり、日本での国内感染発症はない。

 今回記載したデング熱、チクングンヤ熱、マラリアは蚊で媒介される。病原体を保有している(血液中に存在する)ヒト(もしくは保有することのできる動物)を蚊が吸血し、別のヒトを吸血するときに病原体が体内に侵入して感染する。直接に感染することはない(輸血は別)。蚊の媒介する感染症は、他にも、ジカ熱、ウエストナイル熱、フィラリア症、日本脳炎、黄熱がある。熱帯・亜熱帯を中心に、旅行するときには蚊に刺されないように注意が必要である。前述したように、これらの感染は夏ばかりではない。蚊よけの薬剤は必須である。できれば、長袖・長ズボンで皮膚の露出を避ける。長袖・長ズボンでも、首筋・手足は蚊よけ薬を使用することが望ましい。上記の疾患でワクチンがあるのは日本脳炎、黄熱のみである。ただし、ウエストナイル熱は、最初はウガンダで検出された熱帯病であったが、熱帯ではない世界各国で発生している。特に北アメリカでは大規模な流行となっている(現在は少し落ち着いているが)。

 なお、媒介する蚊の種類によって、感染場所・時刻が異なる。デング熱を媒介するネッタイシマカ・ヒトスジシマカはタイヤや空き缶などのたまり水で発生できる。都市部で多く感染が起こる。また、昼でも吸血する。従って、観光旅行で容易に感染し、日本でも2次感染(日本での蚊を介した感染)が起こりやすい。マラリアを媒介するハマダラカは水田や渓流の淀みなどの清い水を好む。また、吸血行動は夜である。したがって、都市部の感染は比較的に少ない。アフリカでの野生動物見学(サファリ)、特にナイトサファリは感染機会が多いであろう。この状況と日本でのハマダラカ減少とを考えるとマラリアの日本での2次感染の可能性は低いと思う。

 皆さんには、東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地方を訪れるときには、蚊に注意してほしい。蚊除け(虫よけ)の成分としてはディート(deet)、イカリジン、ピトレイン、トランスフルトリンなど多種がある。ディートが最も有名であるが、幼小児には注意が必要とされる。ついでは、イカリジンでディートより皮膚刺激性が低いとされている。現在、日本ではディートは30%まで、イカリジンは15%まで含有した製品が市販されている。私は、旅行時にはプッシュ式(スプレーではなく)の蚊除け薬の皮膚用と室内噴霧用を携行する。ディートを含有するものを使用している。蚊除け(虫よけ)は日本では季節商品であり、夏季以外では薬店にないことが多い。ただし、インターネットでは手に入る。なお、私は蚊除け(虫よけ)薬剤の専門家ではない。聞きかじりの知識であることをお断りしておく。

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